丸山離山〜小夜戸峠

*意気地なしで金葛の遊歩道や城山くらいしか歩けない代行を憐れんで、雪山の小休止に地元を歩くというあにねこさん、桐生みどりさんからお誘いいただき、みどり市小平の奥、丸山離山を降り出しに小夜戸峠まで、柔らかい風が吹く青空の下、久しぶりに歩いてまいりました。なんと丸二ヶ月ぶりの山歩きは1064mからの緩やかな尾根下り、いくらか重くなった身体と脚には嬉しいコースです。

○岩穴観音
ご存知小平の大杉根元の青面金剛に手を合わせ細い県道を北に進めば、右側に楚巒山楽会好みの怪しき寺影。唐風の朱塗りの門から続く急な石段の奥、自然に穿たれた穴の中にどうやら観音さまがおわすその名も岩穴観音。みどり市の指定史跡ですが本堂の朱塗りも雨に晒されて余り手入れをされていない様子で、横の太鼓橋の向こうの脇堂は地震のためか崩れていて、忘れ去られたような寂れた史跡です。
桐生忍山林道の温泉神社や堤の白龍神社、あるいは足利の金剛閣ほど不気味ではありませんが、一脈通じるなんともいえない廃墟風味。穴がある大岩の上には手摺のようなものが見え、道もあるようなないような。まだサンダル履きだったので拝観だけですませましたが、ここは研究課題。
門の脇の馬頭観音の彫刻は力強い馬の浮き彫りが三面にあり、かつては飾り馬を連れて参詣したのだとか。その後幕末には眼病と鉄砲術の仏になったのだそうで、下の神楽殿には色褪せた炮術奉納の額が掛かっています。

○離山から十二時山
県道終点落合橋のそばはまだ桜が真っ盛り。微風に花びらが緩やかに舞い降りてときどき鳥のさえずりが響く静かな山里。桜の向い側には大きなヤシオツツジがこちらも満開で、その下に青面金剛や馬頭観音がひっそりと鎮まっています。民家の脇には「右山道・左さやと」の古い道しるべが立てかけてありここが下山予定地。
この道脇に一台駐車して、林道小平座間線の細いくねくねしたカーブのガードレールには熊徘徊中といくつもペンキで書かれていて、道には落石や枯れ草が散乱して走りにくそう。途中自転車の集団を抜いて、本日は山日和であり、サイクリング日和でもある上天気。それにしてもこの林道はかなり急勾配で、自転車のひとの太腿、えらい、えらい。

林道の最高点からは眼下に草木ダムが真青な空を写し、その向こうにどどんと男体山、ダムの右側には昨年最後に泣きながら下った白浜山がきれいな三角錐に尖って、手前の低い山並みは淡い緑に彩られています。
まず東側の丸山離山の山頂めざして斜面にとりつきます。枯れ草の間の踏み跡らしきものを辿るのですがのっけから急登。少し二日酔い気味の心臓は早くも泣き言を言い出しますが、あっという間に三角点、今回の最高峰です。
ハイトスさんとRKさんの看板が嬉しいお出迎え。けれども三角点の白い標柱はくまさんのストレス解消の餌食になったのかぼろぼろです。
山頂からの眺めは細い灌木に邪魔されていまひとつ。早々に別の踏み跡を辿って林道に戻ります。

西側はきれいな道がついています。勾配も緩やかで歩きやすい。こちらもすぐにいせさきふるさと山歩会の看板のある十二時山の山頂で、こちらは1056m、三角点はありません。ここからは袈裟丸山方向の展望が開けます。
この十二時山という名称には異論が多く、里のひとは誰もそんな風には呼ばないともいい、では正式な名は、といえばこの山塊全体が丸山でピークは四つほどあり、そのそれぞれは呼び分けないのだとか。もしここを読んで行かれる方、この山を十二時山と呼ぶ時はどうかうんと小声でお願いします。

○鹿生峠へ
道は尾根上を緩やかに下り、まだ色の少ない木立の中にアカヤシオの鮮やかなピンクがあちらこちらで風に吹かれています。咲き始めたばかりで蕾が多く、花もなんだか初々しい。
迷う個所もなく、顕著な登りもないままに950mのピークを過ぎますがこの少し長めの支尾根を持つ高まりにはできれば名前が欲しい。小平側には全く集落はありませんから足尾の方で調べるしかなさそうで、これも研究課題(!)。
振り返るとさっきまでいた離山や十二時山がかなり高く大きく見え、右手には赤城山の長い裾野が見えて、朝のうちはいくらか白かった黒檜山もこの好天に雪が溶けて黒々と屹立しています。

ひとつピークを巻いて下り着けば樹の横に三面八臂の馬頭観音がひっそりと佇む鹿生峠。ほっそりとした明るい峠で、けれども足尾側はすぐ下に集落が霞む急斜面。昔のひとはこの急坂を通って往来したのでしょうか、昔のひとの太腿もえらい、えらい。
馬頭観音は下の小友のものよりふっくらとした姿で、頭の馬の柔らかい曲線がずいぶん摩滅しています。横の樹木が台座を抱きしめているので残念ながら年代はわかりません。
うらうらと陽射しにあたりながらここで例によってビールで乾杯。あれこれお腹に詰め込んで少し横になっていたら、すわ、地震です。山がぐぐんと突き上がるのを背中がありありと感じました。後で聞けば震度3の余震なのだとか。本震のときは山そのものがぐいぐい波打って上下したのかもしれません。なんだか心許なくなって起き上がり、暫く地球談義。板子一枚の上で暮らしていると思い定めているつもりでも、いざ揺れるとどうも落ち着きをなくしていけません。

○小夜戸峠を下る
馬頭観音を後にして865mピークへ。今日一番の急登です。まだ枯葉が厚い斜面で喘いで、こんなに身体が鈍っているとはなんたることかと嘆きます。もう一度緩やかに登り返せばアンテナの立つ小夜戸山山頂。小広くひらけた明るいてっぺんで小さな標識がお出迎えです。芽吹き始めた木の芽の緑が青空に映えてしばらくあっさり過ぎてしまうのはもったいないと小休止。
ここからは西に気持ちのいい尾根が延びて、すぐ下に見えるのが小夜戸集落かしら。やはり昨年大畑山を歩いてここより少し南側の道なき道を下ったのでした。

ここからは尾根が四方に延びて錯綜しています。あにねこさんがしっかりとルートを確かめ、桐生みどりさんお得意の岩峰の聳えるピークを過ぎて、下ったところが小夜戸峠。こちらには目印は何もありませんがいかにも峠という風情の細い鞍部です。

左手の杉林の中に突入。踏み跡は全くなく、かなり前に伐採された杉の枝が積み重なってひと足ごとにばりばりと乾いた音をたてて身体が沈みます。相変わらずこういうところではあれーだのひえーだの悲鳴ばかり元気よく、それでもすぐに作業道へ到着。
作業道を少し下った別れ道、大きな二本の杉に守られて庚申文字塔と猿田彦大神、下と同じ道しるべがあります。柔らかな木漏れ陽を受けて民俗信仰の神さまに相応しい森閑とした場所。明るい山頂も好きだけれどこういう神さびた場所は実に好ましい。
あとはゆったりと小さな草花を愛でながら下るだけです。菫の仲間や二輪草、猫の目草、名前を呼べないその他色々。けれども今年の椿の花の数のなんと多いこと!ぎっしりと紅い花をつけた樹はいかにも重そうで息苦しい。しかもいつもよりずいぶん遅いんじゃないかしら。

小沢に沿って下り人家が見えてきたところで大事件発覚。なんと下の車の鍵を上に停めた車の中に置きっ放して来たのでした。歩いて車を取りに行くなんて案もでましたがこの林道は余りに長い。携帯電話は通じず、不審がられながら民家で電話をお借りして、桐生みどりさんの奥さまの手を煩わせて鍵を届けていただいて、う〜む、まるで我らは赤面金剛、この林道をてくてく下ることになったうさぎさんをもう決して笑えません。次からはきっと気をつけようと固く心に誓ったのでした。

これからしばらく、下草が茂る前はアカヤシオが見頃の気持ちのいいコースです。電車利用で足尾から小平に峠道を抜けるのもいいような。小友にはみどり市名物の呼べば来てくれるバスの停留所がありますが、携帯電話の電波は届かないようで、もし使われる方はもっと下で予約しておかなければなりません。

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