菅塩〜神籠石〜姥沢峠

*神籠石が気になる、根本さまも気になる、山ツツジも綺麗だろう、でも迷いたくはない、太田市側からならなんとかなるかも、というわけで南側から八王子丘陵を歩いてきました。
のんびりと新桐生で電車を待っているとこれから出張というあにねこさんに遭遇!えへん、天王山から荒神山まで歩きます、なあんてつい言ってしまったけれど歩けるのか、筆者。

天王山の南、地図上の八王子公園は着々と整備されている美しい場所ですが公園ではなく大きな霊園です。植えられた並木はまだ若く、見下ろす関東平野は春霞に溶けて、規格で統一されるという墓石がまだ少ないのでいかにも墓地という感じではありませんが。
階段をいくつか登り、突き当りの標識に従って林道に入ります。左手はゴルフ場で、眩しい新緑の木々の間に既に半袖のプレイヤーが何組も見えて、世はなべてこともなしの午さがりです。
緩やかに登る林道はすぐに広い山道となり、柔らかな葉蔭の間に時々鮮やかなツツジの色が散って、鳥の声が高くを渡ります。みどりよ、みどりよ、おまえは美しい、なんて歩いてると右手に細い山道が岐れるのでつい出来心。登り着くのはツツジに囲まれた小さなピークで、筆者、すっかりここが天王山だと思い込んで山名票の類いを探しますがなにもありません。なんて謙虚で可愛い天王山(実は天王山は左手だったと帰ってから気づきました)。下ればすぐ八王子丘陵の縦走路。

右手菅塩峠方面へ少し歩くと誰が付けたか偽菅塩峠、ここを左手桐生側へ下ります。沢はまた抉れていて崩れやすい土を踏んで、緑と黄色のテープの目印を左へ。草と茂る枝をかき分けて踏み跡を辿ります。ここへ来るときは今度こそ鎌と軍手を持って来ようと固く決意。なぜか神籠石を左に見下ろす場所へ出てしまい、覆い被さる緑に押されて大きく傾いだ石を見て心が痛みます。
ぬた場になっている湧水を跨いで近づくと、手前のあじさいの若木に白い幣束が供えてあり、そばの石にやはり白い小皿が置いてあって、これは賀茂神社の方がお祀りして下さったのでしょうか。だとしたらとても嬉しい。
手を合わせてからしばらく、枯葉や苔や羊歯、割目に溜った土なんかを取り除いてみましたが筆者では上部には手が届かず切歯扼腕。爪は真っ黒、抜かれたくない木に派手に頬を引っ掻かれ(泣)、力尽きて名残を惜しみながらよたよたと稜線へ戻ります。

籾山峠への縦走路は広々とよく踏まれて、標識もしっかり付けられ、太田市がここに手を入れる前、篠竹の間の細い山道を歩いたときと比べると別の山のような気さえします。急な斜面には段が刻まれ、繰り返すアップダウンも楽々。柔らかな緑の間に小俣石尊山が臨める場所もあれば藪塚側がちらちら覗ける場所もあり、道脇にはチゴユリが可憐に俯いて、ときどき爽やかな風に撫でられれば、ひとつ口笛でも吹こうじゃないか。
上下左右まんべんなく眺め回しながら、ベンチを見ればひと休み、ツツジが鮮やかだとひと休み、重なる緑が陽に透けるのは見飽きない美しさとひと休み。あんまり休んでばかりだったのでとうとうどこかに帽子を置き忘れてしまいました。
右手に採石場が見え隠れして車の音が大きくなればすぐ籾山峠への下りで、ここもかつてはゴミが捨てられたもさもさした急斜面でしたが今は階段になっていて見違えるようです。

車道を少し桐生側へ下って茶臼山ハイキングコースの標識から稜線へ。濃い緑の間の暗い階段を登り切ってふり向けば桐生川の向こうの仙人ヶ岳から小俣への山並が一望でき、あの長さが燃えたのだと改めて火事の大きさを思います。
根本山(根元山)への上りは篠竹の間を縫って、猪が掘り返したたくさんの痕跡はどれも深く、かつては東側縦走路よりこちらの方が整備されていると思ったのが嘘のよう。けれどもこちらの方が山ツツジの花叢は断然多くて華やかです。
登り切ると勝負沼・雷電山への標識とベンチがある開けた場所。ほんとに太田市はお金持ちというか、山が少ないから手が回るというか、この山稜は藪塚側へはいくつも道が整備されていて標識もしっかりしています。噫桐生市哀哉。
詮無いことを歎くのも業腹なのでとっとと先を急いで、すぐ根本山の頂上看板に到着したのですが、根本さまの石宮はあちらの南尾根じゃなかったっけ!目的は常に見失うのが筆者の定め。でも大丈夫神さまは逃げないわ、勝負は次よ(違)。

今年は桜も良かったですがツツジも近年稀なる当り年、根本山の展望台を過ぎてからは新緑の間に紅や朱が散る静かなプロムナードが続きます。よく踏まれた山道の起伏は少なく、陽射しはまだ強過ぎず鳥の囀りが空に響いて春の至福。
道脇に大きな庚申石が立つのは姥沢峠です。ここで筆者はかつて代表幹事とここを八王子神社へ下ったことをふと思い出し、全く予定になかったのについふらふらと桐生側へ降りてみます。倒木の目立つ踏み跡を辿ると細い杉の林の斜面には木枠の階段が設けられ、折り重なる竹の枯木を踏み越えて荒れた道跡を進んでいると、あややっ!!前方に黒い影。がさごそがさと右斜面へ登ってゆくあれは!踏み跡は沢筋の水溜まりへ曖昧に続いて、なんと水の表面がまだ揺れています、ひえぇ〜!心臓はばくばく、冷汗がたらり。どうしよう、これを飛び越えれば道はしっかりするのかしら。後からさっきの影がやって来ないかしら。目の下には暗い杉林が広がります。
怖いときは元に戻ろう、そうだわそうだわそうしませう、ってんで姥沢峠に登り返しますがどうも背後が気になってしかたありません。ゆっくり、ゆっくりと言い聞かせ、稜線に戻ってしばし放心。でも猪にしてはずいぶんのっぽに見えました、いったい何だったんだろう。

これで一気に意気は阻喪し臆病風に吹かれて、こういう時に薮塚側のしっかりした道はありがたい、姥沢峠から青少年自然の家へ続く不整合コースを一心不乱に下ったのでした(ここも山ツツジが美しい道でした)。
う〜む、たとえ世はなべてこともなしであろうとも、筆者のひとり歩きはまだまだ前途多難が続きそうです。

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八王子霊園突き当たりに標識
新緑の中を
小さなピーク
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主稜線に合わさる 神籠石への下り口 沢は崩れている
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踏み跡は緑をかき分けて また傾いたような神籠石 新緑を浴びて主稜線へ戻る
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広々とした道
急斜面には階段がある
籾山峠の舗装道が見えてくる
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峠から根元山への登り口
仙人ヶ岳の稜線が見える 道にも猪の堀跡が
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新緑の中山つつじが続く
勝負沼への分岐 根元山山頂看板
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こころ愉しい新緑と花の道
姥沢峠の庚申石が見えてくる
桐生側への下りは荒れている
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大きな水たまり:ここで心折れる
自然の家への下り(不整合コース)
舗装道が見えてほっとした(弱虫)

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