皇海山と足尾山塊 増田宏

重い。2002年に発刊された「袈裟丸山」はB6版194頁で、手軽に読むことができ、山行の際にはザックに忍ばせるともできる本だったが、今回の「皇海山と足尾山塊」は版型が一回り大きなA5版280頁の上、上製本で、山行のお供というわけにはいかず、畢竟、armchair mountaineerと化して、この本と向き合うことになった(といっても拙宅には安楽椅子はありませんが)。

面白い。100頁程が沢の遡行記録にさかれているが、淡々とした記述の中にも臨場感があり、岩場に行き詰まったり、突破口を模索する行では、ザイルを握っていた当時の感覚が蘇った。著者が三重泉(さんじゅうぜん)などに入渓していた1980年代は登山ブームの始まった頃で、ミーハーである私は、槍や穂高に足を向けていた。深田久弥の「日本百名山」を読んだのもその頃で、皇海山の名前も日本百名山で知った。響きの良い山名と美しい字面でいつか登ってみたい山になった(今現在まで未踏ですが)。この何年か、主に地元の山に登るようになり、皇海山の秀麗な姿を間近で見るようになり、登ってみたい気持ちが強まっている。本書を読了して、いつか登ってみたいが、この夏登る山に変わった。

蒙が啓かれた。赤倉山、ヲロ山、宿堂坊山、砥沢富士等々、あまり目にしたことのない山名のオンパレードで、地域への興味も湧いた。赤城山と袈裟丸山の尾根が繋がっているという記述には驚かされた。なんと、赤城・袈裟丸間の縦走ができてしまう。皇海山の山名についても深田久弥説を信じていた私の目からウロコが落ちた。
山に登るだけが目的の人に山のガイドブックとしては、お勧めできないが、山登りを文化として、捉えられる人や山の持つバックグラウンドに興味のある人、紀行の好きな人に、是非読んで頂きたい。

深い。袈裟丸山の名前を父親から教えてもらった著者は、中学二年生の時に庚申山に連れていってもらう。“真っ暗な中、懐中電灯を手に庚申山荘まで歩き、翌日山頂に立った。亜高山帯針葉樹林に覆われた山は桐生の里山とは全く景観が異なり、山頂から見た鋸山や皇海山の姿が強烈な印象となって忘れることができなくなった。この山行が私に山への扉を開き、以来、山は私の人生に不可分の存在になった。”(あとがきより)行間からも、この山域に対する著者の思い入れ、愛情が伝わってくる。

わたしにとっても山は人生の彩りとなっていますが、どの山行がきっかけで足繁く山に通うようになったか、覚えがありません。何となく山を歩いているうちに、この体たらくですね。

「袈裟丸山」同様、目次を紹介すると
一 足尾山塊の自然  二 登山コース  三 足尾山塊の渓谷  四 積雪期の足尾山塊  五 足尾山塊の歴史 六 その他

というわけで、楚巒山楽会推薦図書です。

楚巒山楽会代表幹事

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読売新聞群馬版5月28日掲載 ぐんまの本棚

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