岳ノ山〜大鳥屋山

*寒いけれど好天が続いて、どの山へ行こうかと地図を目でなぞって見つける大鳥屋山(おおとやさん)。隣の岳ノ山(たけのやま)は「岳」がつくからには修験の山で山頂には石祠や石像があるというし、滝もあれば一等三角点もある、なんといっても小鳥が多そうないい名前、ぜひぜひとあにねこさんと桐生みどりさんにお願いして連れて行ってもらいました。

○岳ノ山へ
もう少し暖かくなればセツブンソウやザゼンソウの群生が見られるという佐野・秋山郷の五丈の滝の町営駐車場からの出発です。すっかり冬枯れた山肌を見ながらまずはその五丈の滝見物。細い杉の植林帯をひと登りして展望台があるという谷底に降ります。下の大きな看板に倒木で滝は見えないと注意書きがありましたが、年末から雨が降らないせいか水が少なくて滝もずいぶん遠い。展望台のすぐそばには確かに倒木が折り重なり、緑の濃い水量の多い季節なら山肌を奔り落ちる水が綺麗なのかもしれませんが、この季節は冬色の斜面が両側から迫り荒涼とした雰囲気です。上にある滝見の松もすっかり朽ちていて、張られた鎖が鈍色に光っているだけ。

登山道に戻り杉林の中を涸れ沢に沿って登ります。遠くの空までひとの手がもう入らなくなった荒れた植林帯が延々と続き、高い梢を透かせて弱い光が射し込んでもなお暗い。斜面はだんだん傾斜を増し、歩き始めはずいぶん寒かったのですが息は切れるし汗ばむし。少し休憩しましょうよ〜と泣き言を言ってももう少し、もう少しと、山の「もう少し」に相変わらず騙されながら稜線を目指します。
首が痛くなるほど見上げる高みに空は雲ひとつなく真っ青で、植林の山もいくらか歩きましたが稜線まで見渡す限り、ひょろひょろした杉がぎっしりこんなに伸びている山も珍しい。

ジグザグに切られているといってもほとんど直登に近い道が右側に大きく巻けば稜線に到着です。手前の山並みの向こうに谷筋を白くした男体山が覗き、北から吹きつける風がそれはそれは冷たい。
山頂の肩に扁平な石を組み合わせた上に御嶽山の石祠。お不動さまが座る瑟瑟座(しつしつざ)に似たこの台座、なかなか芸術的で地震にも強そうです。手前には小さな水盤も奉納されてかつての信仰の篤さを物語っています。
すぐ上に明るく開ける頂上には亨保の年号が刻まれた石祠と迦楼羅焔が見事な不動明王の立像。ぷっくりした幼児体型と厳めしい表情がアンバランスでなんとなく微笑ましい。足元にはきっと登山者が上げたのでしょうお賽銭が古びていて、みなさん何をお願いしたのかしら。
704mの新しい頂上看板を写真に収めていると、吹き抜ける風の音に可愛い鈴の音が交じって大鳥屋山から単独行の方が登って来ます。こんな地味な山に物好きな、なんて自分のことは棚に上げて感心してしまいますが、栃木百名山のひとつと聞けばこんなに寒い日でなければけっこう賑わう山なのかも知れません。

○大鳥屋山へ
小休憩の後大鳥屋山への稜線を下ります。露岩が目立つ急峻な痩せ尾根で、張られたロープにしがみついたり、細い立ち木に縋ったり、岩の間をよじ登ったり、しばらく気の抜けないアップダウンが続きます。ひゃあひゃあ騒ぎながらも登りの長い植林の道より断然面白く、冷たい風も快い。小枝の間にはぐるりの山が遠くまで見えて、その中におなじみの野峰をみつければなんだか嬉しくて、顰蹙されるので声には出しませんが「あたしの野峰」なんて心で呟く。さっきまでいた岳ノ山は三角錐に聳えてだんだん遠ざかり、名残を惜しみながら何度も振り返ります。これでどこかでこの形を見れば「あたしの岳ノ山」になるわけです。もちろん心の中だけですが。

雑木ばかりだった稜線の左側に杉林が広がり始めると道は緩やかに、露岩もなくなり、日の当たる笹原でお昼の大休止。あれこれ広げたまではいくらか暖かかったのに、北からの風はどんどん強くなり、そのうち全く休みなく吹き続けて、北の高気圧は息切れしないのかしら。どんどん身体が冷えてきてじっとしていられない、手早く撤収して先を急ぎます。
所々にテープがある尾根道は歩きやすいのですが両斜面ともかなり急で、特に左側に続く杉の斜面は見下ろせば真っ暗で、誇張ではなくもうそこから夜が立ちのぼってくるような気になります。こんなに杉だらけにしてこの後どうなるのか少し心配ですが、夏にはいくらか涼しいのかもしれません。

大鳥屋山直下からは張り出す杉の根が階段状になってしばらく急登。天辺は東西にだだ広く、植えられた杉が長く影を曵いて薄暗くひんやりしています。遠い昔、ここに小鳥を狩るための小屋を作ったのか、この平たい山頂の形が下から見た時に鳥屋に似ているのか。聞こえるのは風の音ばかりで鳥の声がしないのは季節のせいでしょうが。
木漏れ日を受けてまず天保の石祠、その先には古い御嶽講の石祠と昭和21年の銘がある石碑が並び、一番奥に山頂看板と一等三角点。栃木には11あって筆者にはこれが一番目になりますが、う〜む、いまひとつ華やかさに欠ける一等です。

しばらくそれらを観察して来た道を下山分岐まで戻ります。
分岐からは杉林の中、上手につけられた山道を緩やかに下ります。時々高くで、樹木同士が風にあおられてぶつかり合うのか、からんと乾いた音が響くだけの静かな道です。こちらから登れば楽ですが、下りがあちらの急斜面というのも辛い。やはりこの周回は登りで泣く方がいいのかもしれません。
尾根を移って少し下れば下前沢林道に合流。林道はすっかり荒れ果てていて沢の中を歩くような状態がしばらく続きます。道がしっかりしてくれば四方山話をしながらてくてくと。すぐに出発地点の町営駐車場が見えてきます。

もう少し後の季節、緑が若々しい雨上がりの日なんかに歩けば滝も山も華やいで変化に富んだ楽しいコースだと思う。いえ、もちろんこの冬枯れの頃も大人の歩きができるいい山でしたが。

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右:岳ノ山へ、左:大鳥屋山へ
冬ざれた道
五丈の滝へ
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木漏れ陽が美しい
荒れた五丈の滝
登り出しは緩やかに
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暗い杉林を
ひたすら登る
急登は続き
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ようやく空が近づく
痩せ尾根に飛び出す
遠くに男体山
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肩の石祠
もうひと登り
不動明王が待っている
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頂上看板704m
もちろん下りも急
露岩の隙間を進む
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ぐるりは山
野峰!嬉しい
岳ノ山を振り返る
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下山路分岐のマーキング
杉が並ぶ頂上
石祠や石碑が並ぶ
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大鳥屋山山名票と一等三角点
下り着く下山口
林道は沢と化している

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