立花山〜三日月山

*海が見える山頂に立ちたいとここ三年ばかり思い続けていたのですがなかなか果たせませんでした。思い立って博多へ旅したついでに小さな里山を歩いてやっと念願成就。楚巒山楽会初の九州進出です。 

立花山に登る予定でいた日は春の嵐、しかたがないので博多湾の反対側の公園から眺めていたのですが、航路の目印になったのが納得できる海からきゅっとそそり立つなかなか立派な山容で、かつては難攻不落の山城があって現在もその遺構が残り、でも何といってもクスノキの原生林が魅力の山。 

福工大前でJRを降り、立花口に向かえば前日とは打って変わって暖かで静かな日、まずは六所宮に寄って手を合わせます。立花氏の崇敬篤かったというこの神社、今でも地元の方の産土として大切にされていて、綺麗に掃き清められた境内はさすが九州、緑が濃く桜が五分咲きで春の息吹に満ちています。
神社の少し先、古い民家につけられた案内標識に従って入る山道は只今登り口のあたりが工事中で、仮に付けられたという柔らかな土の道はこのあたり特産の立花蜜柑の間を縫って、振り返れば遠くに春靄に煙る海が広がり、海なし県人としては最初から心が躍ります。

すぐに小さな沢に沿っての登山道に出会い、急な個所にはしっかりした階段が付けられたコースは歩きやすい。200mごとに標識はあるし、岐路には全て案内看板もあり、すれ違う方たちは軽装の女性が多く、地元の方に親しまれているのが判ります。
左手に修験坊の滝コースを岐けてしばらく歩けば水場があり、照葉樹林の山の水はほのかに甘くて美味しい。よく踏まれた道の両側には大樹がそれぞれに枝を広げ、ところどころ鮮やかに椿の花が落ちていて、展望はありませんし立花城の石垣の跡へは立入禁止になっていて残念でしたが、緩やかに山腹を巻く道は心愉しい登りです。

山頂まであとわずかの屏風岩から斜面東側のクスノキの原生林に向かいます。自生地北限という樟林は木漏れ日の柔らかな光にどの樹も優しい表情で筆者もなんだか優しい気分になってきます。
その林の中のひときわ古い大樹!世に巨木愛好家が多いのも知っていますし、いままで歩いた山でもたくさんの古樹は見てきました。どれも経て来た長い時間を内に秘めて確かに魅力的でした。でもこのクス、間違いなく筆者を待ってくれていた!見た途端に、ああ待たれていたと確信できる不思議な感覚が沸き上り、小走りで近づきます。根を傷めないよう周囲はロープで囲われていますのでなるべく近くに座り込んで、さらさらと泣きながら、言葉じゃない、身体の深いところでなにかを交わした希有な時間。旅の感傷と言ってしまえばそうなのでしょうが、不思議な時間を過ごして、でも端から見れば間違いなく不審人物、どなたにも会わなかったのは幸いでした。

とはいえここの子になるわけには参りません。名残を惜しみながら屏風岩に戻り山頂を目指します。右に松尾・白岳への分岐を過ぎ、露岩の目立つ傾斜をひと登りでぽんと飛び出る天辺。西側には博多の街、そこから北へずっと海面が広がり、けれども今日は暖か過ぎて海からの水蒸気が靄になって、海の中道までははっきりしていますが、志賀島さえ霞んでいます。残念。
三角点や見下ろす景色を写真に収め、しばらくホテルで詰めてもらったコーヒーを飲みながら待ちましたが靄は晴れる気配がなく、南側直下の三日月山へ下ります。

尾根道は下り出しだけはいささか急ですが、すぐに緩やかなしっかりした道になり、普段この季節歩く地元の山とは違って緑に溢れ、今までひとりで歩いたどの山より平らかな気持ちなのはどういうわけかしら。
右に幾本か下原への道を岐けて少しだけ登れば三日月山山頂。こちらは草原になっていて、たくさんの方が休んでいます。ちょうどお昼どきでサンドイッチを頬張りながら、満開の桜の一樹を前景にさっきまでいた立花山を眺め、菫の群れを愛で、表示盤と照らし合わせながら360度の景観を楽しみます。西側の海方向以外は霞む山並に囲まれて、九州もやまの町、いや日本って山だらけの国、歩く気になればどこにだって道はあるはずなんだわ、なんて。

山でお会いしたひとたちみなさん親切で、いえ、旅行中お会いした方々全部優しくて、筆者、すっかり博多が気に入りました。次はも少し高い山へ登ろう、また天辺から海を眺めようと決意しつつ下原のバス停目指して下山。
下りではちょっと迷って思わぬ場所に出てしまいましたがまあなんとかなるだろう。

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西公園から眺める立花山
六所宮
もう桜が
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案内板のある民家
仮の山道、正面が立花山
道はよく整備されている
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緑溢れる道
樹齢400年のクスノキ
屏風岩へ戻る
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夫婦杉、お賽銭がいっぱい
海の中道が見える
博多の街も霞む
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立花山三角点
下り始めは岩が多い
すぐに緩やかな尾根道に
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三日月山は360度の展望
立花山(さっきまでいたんだよ)
三日月山山頂看板

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