打吹山(倉吉)

*天女伝説は静岡県の三保の松原をはじめとして各地にあって、いくらか型は違いますが基本的には水辺に降りた天女に恋した土地の男が羽衣を隠して天女を引き止めます。倉吉の打吹山は、引き止められた天女が隠された羽衣を見つけ天に帰り、残されたふたりの子どもが母が好んだ鼓を打ち鳴らし笛を吹いて偲んだのが山の名になっていて、羽衣を隠す男もどうかと思いますが隠してあったものを見つけたからって何も子を置いて帰らなくても。そんなに天が忘れられなかったのか、男に甲斐性がなかったのか、あるいは最後まで好きにはなれなかったのか、なんにしても痛ましや。
町中の大岳院には羽衣を最初に置いたという石が残り、このお寺には事実上この地に配流された千葉の館山藩主に殉じて死んだ8人の家臣のお墓もあって、この8人が「里見八犬伝」のモデルになったともいわれ、いやあ、日本全国どこへ行ってもあたしたちはほんとうにお話が大好きです。

県立博物館に車を置いて、初代会長の奥さまと歩き出すのは椿の平から鎮霊神社への道。季節ごとに花が美しく桜は特に見事だそうで、よく整備された道は倉敷市民の散歩道として親しまれ毎朝山頂まで歩く方も多いのだとか。たくさんある躑躅はもう終っていましたがこの日は黄菖蒲が可憐でした。
鎮霊神社を過ぎると幹の太い背の高い古樹が深い葉影を作り、この山は全山自然林で、タブノキやスダジイ、シラカシには樹齢500年のものも珍しくなく、しっとりと落ち着いた道は緩やかに尾根を横切りながら高度を上げます。
白壁が眩しい展望台からは直下に倉吉の打吹地区、こちら特有の赤い瓦が周囲の緑と相俟って美しい。川のあちらには山並の末端にさきほどまでいた仏石山も眺められ、その向こうには日本海があると思えば空の色も特別に感じられます、と言ったら笑われましたが。
この展望台からは緑が邪魔して見えませんでしたが、少し下の空が開ける場所からは西に、谷筋にまだ幾筋も雪を残した大山が眺められ、この数日前に遭難事故があったそうで例年より高い場所は寒いのかもしれません。
里山はいいお天気でよく踏まれた道は尾根筋を緩やかに頂上へと続きます。常緑の色濃い緑と若葉の柔らかな緑との重なりが陽を受けて、ときどき鳥の長いさえずりが響き、近頃一緒に山を歩かなかったのでたまには歩こうと言う奥さまにぜひそうすべき、なんて筆者心から進言。天女ならぬ身、地女はたまにはご亭主を尊ぶ方が悔いは少ないかも。

到着する山頂も緑の蔭が濃く、余り展望はありませんがかつてお城が建てられていただけあって広々としています。どっしりした城址の記念碑や200種を越す植物の案内板などがある天辺には、筆者たちの他は一組だけでほんとうに静かな落ち着いた山です。
暫く四方山話に花を咲かせていると、所用の済んだ会長と、一緒に倉吉の町歩きをしてくださるお嬢さんがもう帰宅したとの連絡があり、急いで東側の稜線を標識に従って下ります。
こちらの道は往路より細く、谷筋を急降下する個所もあって野趣に富んでいてなかなか面白い。周囲の緑は深いですが道そのものは歩きやすく足が弾みます。
山裾をぐるっと、木々の吐き出す甘やかな空気を胸一杯にいただいて、ここは”森林浴の森百選”に入っている山、たっぷりと緑に塗れて駐車場所へと戻りました。

(話が弾んで写真が少なくなりました。最後の一枚はこの後ドライブに連れ出してもらった三徳山の、投入れ堂と手前のお堂ふたつ。投入れ堂だけがもっとはっきりと見える場所もあって、大岩壁に挟まれたあれは実に見事です。もし次があるとしたらきっと歩いてみたいところです)

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ひっそりとした鎮霊神社
山全体に古樹が多い
展望台から赤瓦の町と向いの山並
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頂上は広い 下り道は緑が濃い おまけ・三徳山を下から眺める

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