帝釈山脈東部 荒海山(太郎岳)

増田 宏

*  帝釈山脈東部は標高が低く、西部に比べると山が孤立しているのが特徴である。顕著な山群として枯木山、荒海山、明神ヶ岳に大別される。枯木山から標高を減じて連なる山稜は安ヶ森峠から再び高まり、荒海山(1581b)の孤峰を聳え立たせる。荒海山は会津側の呼称であり、野州側では太郎岳と呼ばれている。『新編会津風土記』には、「荒貝嶽 熨斗組岩下村の東南にあり、頂まで二十町計、北は本郡川島組瀧原村に属し、下野國鹽屋郡河島組芦澤村に属し、太郎嶽と云峯を以て界とす」と記載されている。
 太郎岳よりも荒海山の名が人口に膾炙していることから会津側が表口といえる。荒海山は阿賀野川の水源になっている。阿賀野川は、上流は荒海川、中流で阿賀川(大川)、越後に入って阿賀野川と名を変えて日本海に注いでいる。登山道は会津側の荒海川方面からしかなかったが、最近野州側の入山沢から道が伐り開かれた。私は二十年ほど前に会津側から登ったことがあるが、野州側から道が拓かれたことを知り、再訪したいと思っていた。この秋に思い立って一人で新登山道から山頂を目指した。
 早朝、桐生を出発して中三依から入山沢沿いの林道に入る。分岐には太郎岳の新しい標識があった。舗装道路を太郎温泉まで行き、ここから砂利道をしばらく行くと車止めがある。鍵がかかっていないので車で入ったが、500bほど先で支流の上を横切る箇所が洗い越しになっており、押し出した岩が堆積して車高の低い車は通れないのでここに駐車して歩き始めた。少し行くと林道終点になり、ここで沢が二俣になっている。太郎岳の標識に従って右俣の沼ノ沢を渡って左俣のクラカケ沢沿いに登る。登山道といっても沢伝いの踏跡に過ぎず、林道終点の登山道入口以外には標識もなく、何回か沢を渡り返すので迷い易い。クラカケ沢はナメ滝が多く、初級の沢登りを楽しめそうだが、源流が急傾斜で藪が深いのが難点だ。クラカケのクラはー、カケは掛けで、上流に岩が露出していることから名付けられたものだろう。標高千b付近の二俣を左俣に入ると、道はすぐ左の斜面に取り付く。取付点のすぐ先に太郎岳の標識がある。最初は明瞭な伐り開きになっているが、尾根上に出てからは笹が多くなり、不明瞭な箇所も出てくる。道は尾根伝いではなく、時々山腹を巻いているので迷い易い。上部は急斜面の固定ロープ帯が連続する。主稜線に出ると太郎岳山頂の立派な三角形が見え、登高意欲が高まる。この先には太郎岳を示す標識がいくつかある。北側斜面には積雪があり、スパッツがないので靴がびしょ濡れになってしまった。
 三角点(1580.4b)の先に最高点(1581b)があり、「大河の一滴 ここより生る 阿賀野川 水源之碑」と刻まれた新しい石碑が建っている。周囲の山肌は紅葉が美しいが、急峻な山襞と灌木の藪を見ると沢登りをする気にはなれない。帝釈山脈東部の沢は詰めが急峻で長時間の藪漕ぎを強いられるので沢登りは割に合わないと思う。駒ヶ岳や三岩岳など会越国境の山脈はすでに真っ白で、山はすでに初冬の装いだ。
 なお、西に隣接する1560b峰を次郎岳とする記録がいくつかあるが、地域を代表する山として太郎岳の名を冠したと考えられ、次郎岳は太郎岳と対比して登山者が勝手に付けた名前だと思う。下りは早いと思っていたが、沢沿いで何回も道を見失い、登りよりもかえって時間がかかってしまった。
 この登山道は沢沿いの踏跡を利用し、尾根に取り付いてから先も既存の踏跡を伐開したもののようだ。木は伐採してあるものの、笹は刈っておらず、尾根を巻くところが不明瞭である。特に沢沿いの下りでは道探しに苦労するだろう。慣れない人に登山道として紹介するには躊躇するが、整備されていないところにかえって魅力があると思う。

 2010年11月上旬
 駐車地点(20分)林道終点(45分)二俣(2時間)太郎岳(1時間40分)二俣(1時間)林道終点(20分)駐車地点

* *
会津側から荒海山 荒海山遠望(大嵐山から)
* *
登山道入口 クラカケ沢の流れ
* *
クラカケ沢のナメ滝 二俣
* *
二俣付近 支流の滝 尾根取付点
* *
主稜線分岐点 主稜線から山頂
* *
山頂近し 辿って来た主稜線
* *
三角点 山頂から1560b峰

**********

inserted by FC2 system