笠ヶ岳
増田 宏
笠ヶ岳(2058㍍)は奥利根と尾瀬に跨がり、東面は笠科川水系、西面は楢俣川水系になっている。笠ヶ岳が帝釈山脈に属するのは奇異な感もあるが、山域の範囲を尾瀬西端にしたことによって帝釈山脈の範疇に入った。山域の西端を画する名峰であり、山頂はその名のとおりスゲ笠の形(円錐形)をしている。笠ヶ岳と名付けられた山の中で最も典型的な笠の形をしている。至仏山と同じく超塩基性岩の蛇紋岩からなり、山頂部は露岩が分布し、周辺はお花畑になっている。周囲の地質は笠科川、楢俣川流域とも中生代の花崗岩からなっている。尾瀬側鳩待峠と奥利根側湯の小屋から登山道が通じている。ここでは残雪期の記録と奥利根側の楢俣川洗ノ沢を遡行した記録を紹介する。残雪期の笠ヶ岳
冬季通行止めになっていた道路が開通した直後の4月下旬、残雪の笠ヶ岳を目指した。鳩待峠には数十台の車が駐車しており、その大半が至仏山を目指すスキーヤーで稜線に行列をなしていた。悪沢の頭でスキーヤーの行列と別れて笠ヶ岳方面に向かったのは私たち2人だけで、踏跡のない雪稜歩きを楽しむことができた。同行の森田さんは靴だけで私はフリーベンチャーという短いスキーにシールを着けて歩いた。この年は小雪だったが、3月中旬以降気温が低かったので雪解けが遅く、稜線は雪面が続いていた。樹林帯の中は雪面の凹凸が多く、短いとはいえスキーを着けていると歩き難い。やがて堂々とした三角錐のような笠ヶ岳の山頂が現れた。鞍部付近から見上げる山頂は標高差百㍍程度とはとても思えないほど高く見える。上部は傾斜が急になるが、何とかスキーを履いたまま山頂まで登り切った。山頂からは真っ白な利根水源の峰々が連なり、魅力的だった。
下山は登って来た急斜面を避けていったん南側に向かい、東側をトラバースして鞍部まで下った。スキーが下手な私でもこの斜面では滑降を楽しむことができた。小笠の頂上を往復してから悪沢の頭に登り返す。悪沢の頭からは私だけ先行した。スキーでの下りは早いと思っている人が多いが、スキーを習った経験がない私は歩くより速く下ったことは殆どない。ここは斜面の傾斜が緩く、雪面が締まっていたので珍しくスキーの威力を発揮することができた。2007年4月21日
鳩待峠(3時間20分)山頂(1時間20分)悪沢の頭(40分)鳩待峠小楢俣川洗ノ沢
楢俣川支流の小楢俣川は笠ヶ岳西面を流域としている。小楢俣川の本流が笠ヶ岳山頂に源を発する洗ノ沢である。洗ノ沢のセンは滝が多いことから名付けられたものと思う。洗ノ沢は中流部にナメ滝が連続する楽しい沢である。直登できない滝は1つだけで経験者が同行すれば初心者でも容易に遡行でき、経験者ならザイルは不要である。頂上直下に強靭な藪があるのが難点だが、沢から笠ヶ岳への好適路である。
小楢俣川にはかつて木材搬出用の森林軌道が敷かれていた。現在も中流域まで軌道の跡が残っている。奈良俣ダム近くのキャンプ場分岐に車止の遮断器があり、ここから同行のIさんと2人で歩き出した。笠ヶ岳登山口の湖岸道路分岐にも遮断器が設置されており、ここから湖岸道路を20分ほど行き、洗ノ沢を渡る手前で沢沿いの踏跡に入る。この踏跡は森林軌道の跡地に付けられており、藪が深くなった地点から沢に下りて遡行を開始する。
水量が少なく沢筋は藪っぽいが、やがてナメが現れる。2段7㍍滝は下段の左を登って上段の右を登る。この先、花崗岩のナメ滝とナメ床が続けて現れる。節理が発達して足場を提供してくれるので容易に直登できる。特に二ノ沢出合から先はナメ滝の連続で爽快な沢歩きを満喫できる。三ノ沢出合の先にある10㍍滝は直登できず、右を高巻いた。高巻きは踏跡が付いており、容易に落口に立てる。この沢は魚影が濃く、かなり上流まで岩魚が生息していた。五ノ沢出合の先で小滝を幾つか越えると両側から木が被さって急に藪っぽくなる。枝を掻き分けながら源流まで沢筋を辿り、山頂下の草原に出た。しかし、この先で針葉樹の幼樹帯に突入した。この藪は跨ぐのも掻き分けるのも困難で僅かな距離に労力を費やした。やっと藪を抜けると山頂部の露岩帯になり、岩場を直登し山頂から西に延びる稜線に出て山頂に立った。時間が遅いのでゆっくり展望を楽しむ間もなく早々に山頂を辞した。
片藤沼は小さいが、荒れておらず美しい湿原だ。湯ノ小屋に下る道は通る人が少ない割によく整備されている。途中の避難小屋はブロック造りの雨量観測所を転用したもので荒廃していてとても泊まる気がしない。長い尾根をゆっくり下り、林道終点に出た。その先で再び尾根伝いの登山道に入り、日没近くなって登山口に着いた。2009年9月5日
奈良俣ダム遮断器(1時間)洗ノ沢(1時間)一ノ沢出合(3時間)五ノ沢出合(2時間30分)笠ヶ岳(1時間30分)避難小屋(1時間)林道終点(1時間30分)遮断器
笠ヶ岳(オヤマ沢田代との稜線から)
笠ヶ岳(北鞍部付近から)
笠ヶ岳(4月)
笠ヶ岳(北鞍部から4月)
笠ヶ岳山頂の下り(4月)
2段7㍍滝
下流の2段滝
10㍍滝
上流の2段滝
2段滝を登る
上流の滝
源流の草原
山頂部露岩帯
片藤沼
片藤沼と笠ヶ岳
咲倉尾根避難小屋