笠科川上流

増田 宏 


 笠科川上流は笠ヶ岳を中心に鳩待峠から坤六峠を結ぶ稜線を流域にしている。尾瀬ヶ原への往復で笠科川に沿う車道を通る人は多いが、これまで渓谷遡行の対象にはされてこなかった。楢俣川流域の笠ヶ岳西面は昔から遡行記録があるが、笠科川は稜線までの標高差が五、六百㍍の小沢なので注目されなかったのだろう。三十数年前に新聞の地方版に連載された群馬県内の主要河川の水源紀行を見て私は笠科川について関心を持っていたが、山岳雑誌にタル沢の記録が載ったのを機に笠科川上流域を訪ねた。一回目はタル沢を登ってスリバナ沢を下った。スリバナ沢の記録は見たことがなかったが、後で市川学園山岳OB会刊「帝釈山脈の沢」に笠科川上流の記録が網羅されているのを知った。2回目に井戸沢を登って本流を下り、ひととおり流域に足跡を記した。いずれも小さい沢で本格的な沢登りの対象ではないが、初心者向きから初級向きの手軽な沢である。その中で遡行価値が最も高いのがタル沢であり、小さい函とナメ滝の連続で楽しめる。井戸沢はナメの連続と記録にあったが、大半は藪っぽい小沢に終始する。小滝が連続するスリバナ沢は遡行価値があるが、本流は滝が少ないのでどちらかというと下り向きである。

タル沢遡行スリバナ沢下降

 山仲間の大谷さんと前日に急遽決まった山行の目的地を笠科川にした。坤六峠に向かう車道が笠科川を渡る橋から入渓する。まもなく倒木が掛かった立派なナメ滝4㍍を左から直登するとその先で二俣になる。右のタル沢に入るが、本流と水量は余り変わらない。すぐ2段8㍍滝が現れ、直登する。岩床と小滝が続き、その先に小さな函が現れた。中に瀞と小滝が連続しているが、簡単にへつって越せる。さらに行くと第2の函となる。この函がこの沢の核心部であり、タル沢のタル(樽)は函を指すものだと思う。始めの函よりも両岸が迫って狭く、右に曲がった出口には4㍍滝が懸かっている。一見、泳がなければ通過できないように見えるが、棚伝いに左をへつり、途中で右に移って越えられる。出口の4㍍滝は左から容易に越せる。易しい小滝を幾つか越えると二俣になった。水量比は同等で右が悪沢、左が引上悪沢であり、左に入る。悪沢の名前から難しい沢を連想するが、この先は小滝が幾つかあるだけの平凡な沢ですぐ源頭になる。溝がなくなって15分ほどの藪漕ぎで小笠の北鞍部付近の稜線に出た。
 稜線を少し南に行き、小笠の南鞍部からスリバナ沢に下降する。下りの藪漕ぎは容易であり、数分で流水が現れた。上流は単調な沢筋だが、途中から小滝の連続になった。登るのと違って先の様子が判り難いので下りは多少厄介であるが、難しい滝はなく、殆ど直下降できる。本流の出合から傾斜が緩くなるが、時々ナメ滝が現れて飽きさせない。タル沢を合わせると出発点の橋はすぐだ。

2008年7月21日
橋(2時間30分)稜線(20分)下降点(2時間)本流出合(1時間)橋


タル沢8m滝

タル沢第1の函

タル沢第2の函

第2の函出口にかかる4㍍滝

タル沢トヨ状ナメ滝

スリバナ沢最上流の滝

スリバナ沢の滝2

スリバナ沢の滝3

スリバナ沢の滝4

スリバナ沢の滝5

スリバナ沢の滝6

スリバナ沢の滝7

井戸沢遡行本流下降

 山仲間の林さん及び「やまの町 桐生」の総勢4人で井戸沢に向かった。記録では井戸沢はナメの連続とあったが、ナメの区間は僅かで期待外れに終わった。出合の先に堰堤があるので井戸沢橋の東から踏跡伝いに堰堤を高巻いて越える。井戸沢は水量の少ない貧相な沢で両岸から被さる藪を掻き分けて行く。やがてナメが現れると藪がなくなって開放的な沢筋になった。気持ちの良いナメ滝が連続する。直登が困難な滝はなく、快適に登って行く。30分ほどでナメが終わると二俣になり、水流が多く稜線の低い右の沢に入る。ほどなく水がなくなり、両側から覆い被さる藪を漕いで溝を登る。最後に笹薮に突入して登り詰めると稜線の手前で登山道に出た。登山道には至仏山を目指す人が多かったが、オヤマ沢田代から笠ヶ岳の道に入ると急に静かになった。冬型気圧配置で風が強く、至仏山の頂上は雲の中だ。笠ヶ岳の登りは特に風が強く、冬山の前触れのようだった。
 片藤沼から笠科川本流に向かって下降する。片藤沼から湿原の縁に沿って行くとその先にも湿原が続いており、その下端から下り始めた。笹藪に突入したが、すぐ溝になって水流が現れた。小滝が現れると左岸から支流を合わせ、三段の滝となる。この滝は水流沿いに直下降した。この先も幾つか小滝があるが、いずれも岩の節理を利用して直下降できる。スリバナ沢を合わせた先は前回経験済みである。本流はスリバナ沢よりも滝が少なく、下るのには歩き易い。

2009年9月13日
井戸沢橋(2時間15分)稜線(2時間)笠ヶ岳(15分)片藤沼(2時間30分)本流の橋(10分)井戸沢橋


井戸沢1

井戸沢2

井戸沢3

片藤沼下方の湿原

笠科川本流下降1

本流下降2

本流下降3

本流最下流の4㍍滝

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