帝釈山脈東部 明神ヶ岳

増田 宏

*  明神ヶ岳は帝釈山脈東部に属しているが、主脈から離れて独立した山塊をなしている。鬼怒川と湯西川に囲まれた山塊は明神ヶ岳(1595b)を中心に高倉山(1437b)などからなり、栗山沢、フリウギ沢、大滝沢など沢登りの対象となる渓谷が多くある。この山塊については「奥鬼怒山地 明神ヶ岳研究」という地域研究の本が出版されており、奥鬼怒の独立した山塊として捉えられていた。旧栗山村の中央に聳えるこの山塊は里に近い割に登山道もなく、忘れ去られた山々となっている。私は山脈東部を代表する山の一つとして関心を持っていたが、今回山仲間の森田さんの同行を得て初冬の明神ヶ岳を訪れた。
 湯西川温泉手前の川戸集落から前沢沿いの林道を入り、滝倉橋から滝倉沢左岸尾根に取り付いた。この尾根は山頂への最短経路であり、森田さんの仲間の情報から登路として選択した。意外なことに橋の袂からはっきりした踏跡が付いており、踏跡を辿って急斜面を登ると尾根上に出た。植生は檜の造林で雑木の下生えになっており、この踏跡は造林用の仕事道のようだ。途中から積雪が現れ、1381bの標高点まで登ると滝倉沢を隔てて明神ヶ岳山頂が姿を現した。ここに地名が記された板が打ち付けてあり、この尾根は金剛ゾネ(ゾネは尾根のこと)と呼ぶらしい。ここから小さな突起をいくつか越えて鞍部から山頂への急登にかかる。資料によると滝倉沢と大滝沢を分けるこの鞍部はヨガタァと呼ばれていた。タァ(タワ)は峠や鞍部を指す名称である。植生は途中からカラマツの造林地になり、山頂付近はブナを交えた自然林(二次林)になっている。1381b標高点から尾根の向きが南寄りに変わったので積雪は殆どなくなり、ミヤコザサの中の踏跡を登り詰めると山頂に出た。
 山頂は三角点標石と標識板が2枚あるだけの殺風景な場所だった。明神ヶ岳は湯西明神(1574b)から最高点を経て日向明神(1518b)まで南北に長い頂稜を連ねている。山頂に明神を祀った石祠があると本に書かれていたが、その痕跡はなかった。後で調べたところ、山麓には明神信仰があり、祠が祀ってあったのは日向明神の頂らしい。立ち木が邪魔をしているので四方全て展望がなく、僅かに梢越しに帝釈・田代山や枯木山が見えるだけだ。道がなく強靭な藪に遮られた手強い山だと思っていたが、意外なことに山頂まではっきりした踏跡が付いており、あっさり登ってしまった。また、原生林に囲まれた深山幽谷を想像していたが、里に近く野上川源流の雑木林を連想させる山であった。次回は残雪期に湯西明神から日向明神まで頂稜を辿ってみたいと思う。

 2010年12月中旬
 滝倉橋(1時間40分)1381b標高点(1時間)山頂(50分)1381b標高点(1時間10分)滝倉橋

1381b標高点付近から山頂
尾根の登り
樹間から山頂を望む
鞍部から山頂
山頂の登り
明神ヶ岳山頂
帝釈山(左)と田代山(右)遠望
滝倉橋から明神ヶ岳方面

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