中ノ岐川流域の沢

増田 宏 

 片品川は大清水で一ノ瀬川を分岐し、本流の中ノ岐川は小渕沢を分岐した上流で北岐沢と東岐沢に分かれている。
 北岐沢は片品川の本流であり、尾瀬沼から赤安山(2051㍍)、黒岩山(2163㍍)付近を水源としている。中・下流は滝とナメ床が連続し、源流には湿原があって片品川本流に相応しい沢である。東岐沢は鬼怒沼付近を水源とする本流と支流の猿沢・ブナ沢に分かれる。沢沿いに鬼怒沼に登る歩道があったが、二十年以上前に廃道になった。東岐沢沿いの鬼怒沼登山道は物見山経由の単調な尾根道と異なり、沢伝いの快適な道だったので廃道になったのは残念だ。猿沢・ブナ沢は奥鬼怒林道が中流を横切り、興味を減じてしまった。小渕沢は小渕沢田代への歩道が沢沿いに付いているが、地図上から想像したのと異なってナメ滝が連続する興味深い沢である。

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中ノ岐川・根場沢流域の沢

 北岐沢

 北岐沢は三十年以上前に遡行したことがある。その頃には沢登りの本はなく、片品川源流を辿った新聞記事を見て訪れた。廊下の中にある大きな滝を高巻いた以外殆ど記憶になく、下流で幕営中に雨になり、テントが浸水して朝までザックの上に座っていた辛い思い出がある。翌日、小雨の中を遡行したが、源流を取り違えて目的地の黒岩山より西方に出てしまった。今回、前回楽しめなかった分を取り戻そうと三十数年ぶりに沢仲間の林さんと北岐沢を計画した。
 奥鬼怒林道が沢を離れる地点から北岐沢に下り、遡行を開始する。すぐ5㍍ナメ滝、3㍍ナメ滝が現れ、続く5㍍の直瀑は右を小さく巻く。5㍍二条滝は垂れ下がっていた伐採用の鋼索を補助に直登した。小さなナメ滝を越えると3段8㍍滝となり、釜が深いので左から小さく巻いた。堂々とした4段10㍍滝は左側を直登できる。前回の記憶は全くなかったが、この滝の写真が『帝釈山脈の沢』表紙に掲載されており、改めて立派な滝だと認識した。
 3㍍滝を越えると右岸(左側)が切り立った崖になり、右岸支流が滝になって合流している。本流は右に曲折して曲がり際に12㍍直瀑が行く手を阻んでいる。これが新聞記事にあった「箱滝」であり、この谷一番の豪快な滝である。函の中にあるので箱滝と命名したのだと思うが、「箱滝」より「函滝」の方が相応しい表記だと思う。慣れた人ならハーケンを打って左の水流沿いに登れそうだが、登攀派ではない私たちは少し戻って右から高巻いた。踏跡を辿り、滝上から木の枝を手掛かりに落口に下った。
 小さなナメ滝を二つ越え、幅広の階段状滝6㍍を水流伝いに越える。左右に支流を分岐すると小滝が連続し、その先はナメ床が続く。左から支流を合わせると水量比一対一の二俣になる。合流点右岸に少し高くなった快適な幕営地があった。時間は早いが、今回は幕営を楽しむのが主な目的なのでここで泊まる。テントとタープを張って昼間から酒を酌み交わして寛いだ。前日降った雨で沢床が濡れていたので、せっかく集めた薪に点火せず、もう一つの目的である焚火はできなかった。
 翌日起きると小雨が降っていた。雨具を着て右の沢に入る。連続する小滝を越えて行くと緩やかな流れになり、一対一の二俣を右に入ると小松湿原に出た。湿原の中には踏み入らず、湿原を右に見て水流沿いに遡ると殆ど藪漕ぎなしに稜線の登山道に出た。予定では猿沢を下降するつもりだったが、天気が良くないので鬼怒沼を経由して物見新道を下った。途中で雨が上がったが、この道のりは地図上で考えていたよりずっと遠く感じた。

 2010年8月13日〜14日
 大清水(2時間)北岐沢(3時間30分)二俣(1時間10分)稜線(2時間)鬼怒沼(30分)物見山(3時間)大清水

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最初の5㍍ナメ滝 3㍍ナメ滝
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5㍍滝 5㍍二条滝
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8㍍滝 4段10㍍滝 左を直登
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12㍍滝 12㍍滝落口
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6㍍幅広階段状滝 堰堤のような5㍍滝
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ナメ床帯 小松湿原

 東岐沢

 東岐橋から旧道を辿って二俣に着いた。ここまでの東岐沢は平凡な流れで滝は全くない。旧道は右俣伝いに付いていたが、私たちは流程の長い左俣に入った。樹林が覆い被さる暗い沢が続き、40分ほど行くと苔むしたナメ滝帯になった。水量が少ないので瀑流帯といえるほどのものではなく、期待外れだった。水が消失して針葉樹林帯の溝を登り詰めると藪漕ぎが全くないまま三角点と2141㍍峰との鞍部で登山道に出た。稜線には前日降った雪が残っていた。9月の初雪は珍しい。気温5度、寒くてゆっくり休んでいらず、早々に物見新道を下った。
 なお、右俣上流はナメが続き、旧道伝いに藪漕ぎなしで鬼怒沼に出られる。

 2008年9月28日
 大清水(1時間30分)東岐橋(1時間)二俣(1時間30分)稜線(30分)鬼怒沼(25分)物見山(2時間25分)大清水

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東岐沢左俣

 小渕沢

 奥鬼怒林道と分かれて小渕沢沿いの林道に入る。下流は林道が沢に沿って付けられている。沢に堰堤が見えたので林道を行き、上部から入渓した。まもなく二俣になり、左の本流を行くと林道の橋を潜る。階段状の滝とナメが続き、快適に遡る。8㍍滝を左の水際から直登し、10㍍は右の窪を登って左にトラバースして落口に抜けた。最後の8㍍滝は直登できず、踏跡伝いに容易に右を高巻いた。
 ここから上部は一転して平坦になり、単調な遡行が続く。水が殆どなくなって沢が右に屈曲する地点から左の笹藪に突入した。笹の背が高く苦しい藪漕ぎとなったが、15分ほどで登山道に出た。ここから西に5分ほどで小渕沢田代に着き、帰途は尾瀬沼を経由して下山した。

 2008年8月3日
 大清水(1時間40分)小渕沢(2時間)稜線の登山道(1時間)尾瀬沼(2時間40分)大清水

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最初の8㍍滝 10㍍滝
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ナメ滝 最後の8㍍滝
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小淵沢田代

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