根羽沢流域の沢

増田 宏 

 片品川支流の根羽沢は尾瀬沼の登山口である大清水で片品川に合流している。流域に根羽沢金山があったが、二十年ほど前に廃鉱になった。流域には遡行対象になる沢がいくつかある。物見山付近に源を発する湯沢・北湯沢、燕巣山付近に源を発するカラノマタ沢、四郎岳と燕巣山を結ぶ稜線に源を発する大薙沢などである。私はひととおり主要な沢を遡行したが、中ノ岐沢との分水界尾根に源を発する原沢は過去の記録によると遡行価値が少なく、カラノマタ沢も平凡で下山路がないので割愛した。地質的にはいずれの沢も流紋岩質溶結凝灰岩からなり、ナメ床が多いのが特徴である。以下にその記録を紹介する。

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中ノ岐川・根場沢流域の沢

 湯沢

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湯沢最初の7㍍滝

 湯沢は物見山(2113㍍)南面に源を発し、中・下流に滝が連続し楽しめるが、上流は急峻な岩溝の藪漕ぎに苦闘させられる。沢登りのルート図集に載っていたので遡行してみたが、興味深い部分は短く、上部の藪漕ぎを考えると割に合わない。
 妻と二人で物見新道が湯沢を渡る地点から遡行を開始した。すぐ上にある7㍍滝を左岸から高巻き、連続する8㍍滝を左岸から高巻く。この沢で労力を要するのはここだけであり、後は水流伝いに快適に登れる。ナメ滝を越えるとカラノマタ沢を左岸に分岐する。小滝とナメをいくつか越え、一対一の二俣を左に入ると急に水が少なくなり、両岸が草薮に覆われてか細い流れになった。次の二俣を左に入り、殆ど水の流れていない10㍍滝を倒木伝いに越えると草藪に覆われた溝になった。ここから藪漕ぎに突入し、草藪を手掛かりに急斜面を登り詰め、1時間以上かかって物見山頂上に飛び出た。この日は鬼怒沼を往復してから物見新道を下った。

 2003年8月30日
 大清水(50分)湯沢(30分)カラノマタ沢出合(2時間30分)物見山(20分)鬼怒沼(2時間20分)大清水

 北湯沢

 北湯沢は物見山北面に源を発し、中・下流に滝が連続し楽しめる。上流は単調な川原、源流は急峻な針葉樹林帯の登りを強いられるが、藪漕ぎは殆どない。
 森田さんと大清水から根羽沢沿いの林道を辿って登山道の途中から北湯沢に下りようとしたが、物見新道が湯沢を渡る地点まで行き過ぎてしまった。地形図では登山道が北湯沢合流点の下流で湯沢を渡るように記載されているが、実際の道は物見山の尾根取付点まで左岸沿いなので注意を要する。登山道を戻り、湯沢と北湯沢の合流点に下った。北湯沢に入るとナメ滝が現れる。3段7㍍滝は中段の釜が通過できないので、まとめて右岸から高巻いた。いくつか滝を越えると堂々とした10㍍二条滝が現れた。右岸から小さく巻き始めたが、この上に2段5㍍ナメ滝が連なっており、そのまま高巻いて木の枝を手掛かりに落口に下った。その後も小さな滝やナメが続くが、困難な箇所はない。
 上流になると一転して平凡な流れが続く。右岸に支流を分けしばらく行くと5㍍滝が現れる。ここは二俣になっており、左の支流沿いから滝上に出る。滝上でいったん伏流になるが、すぐ水流が復活する。源流の二俣を右に入り、水流がなくなると針葉樹とササの急斜面になった。傾斜は急であるが、ササ漕ぎは一部のみで藪漕ぎは殆どない。稜線まで登り詰め、右に僅か行くと物見山頂上である。帰途は物見新道を下って大清水に戻った。

 2010年8月8日
 大清水(50分)北湯沢出合(3時間45分)物見山(2時間40分)大清水

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3段7㍍滝
ナメ滝(上段右を直登)
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10㍍滝
最後の5㍍滝

 大薙沢左俣遡行右俣下降

 四郎峠に源を発する右俣と四郎峠・燕巣山間に源を発する左俣がある。右俣は長大なナメ床が続き快適な遡行を楽しめる。源頭が崩壊して土砂が堆積しているが、詰めは藪漕ぎもなく容易である。左俣は滝が連続する秀渓であるが、大薙沢の名のとおり源流部が崩壊して大きな薙になっており、稜線までの詰めが辛い。
 物見橋から入渓するとすぐ5㍍滝が現れた。右を直登したが、逆層で登り難い。その先で根場沢鉱山の軌道が上空を横断していた。左岸の一段高い所に坑口があった。この先の釜は左をへつるが、足場が微妙でちょっと嫌らしい。ナメ床を行くと二俣になり、左俣に入る。左から滝をかけて支流が合流すると滝場が始まり、高さ10㍍、長さ20㍍のナメ滝を皮切りに10㍍を越す滝が5つある。特に15㍍滝が2つ連続した大滝は見事であり、直登できる。次の10㍍滝は右を登れそうだったが、安全策を取って笹を掴んで左側を小さく巻いた。二俣を右に入ると稜線が近いように見えたが、源頭が大きな薙になっていた。崩れ易く足場が安定しないので、木を手掛りにして薙の右端を登る。同行の林さんは途中で右の稜線が低いことに気付いて右の藪に入ってトラバースしたが、私はそのまま薙を登り詰めて密林に突入した。密林の藪漕ぎを続けてやっと稜線に立ったが、結果的には右の鞍部目指してトラバースした方が早かった。
 四郎峠から峠道の道形を辿ったが、すぐ判らなくなったので沢に下った。左岸が大崩壊して多量の土砂が堆積しており、沢の源頭部は荒れている。土砂の堆積地を下るとようやくナメ床が現れた。ここから長いナメ床が続くが、傾斜が緩いので快適に下れる。途中数㍍のナメ滝があるが、直下降できる。やがて二俣に着き、往路に合流した。

 2008年6月7日
 大清水(30分)物見橋(45分)二俣(1時間50分)稜線(15分)四郎峠(1時間10分)二俣(45分)物見橋(30分)大清水

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最初の5㍍滝
根羽沢金山の軌道
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軌道下の淵
左俣連瀑
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左俣ナメ滝
右俣ナメ床
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右俣ナメ滝
右俣下流のナメ床

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