残雪期の四郎岳

増田 宏 


 四郎岳(2156㍍)は山域の最高峰燕巣山(2222㍍)から西に延びる稜線上にあり、三角お握り形の顕著な山容をしている。地質的には新生代第三紀の火山である。最近まで殆ど登られていなかったが、「群馬百名山」に選定されてから登山者が増えた。整備された登山道はないが、丸沼温泉から燕巣山との鞍部にある四郎峠までの旧峠道が復活し、峠から山頂まで東京電力の送電線巡視道を利用できる。

 積雪期は丸沼林道を辿り、途中から尾根に取り付いて唐沢山(1787㍍)の東で主稜線に出て山頂に至るのが最も容易である。ここでは三月下旬に仲間と二人で登った記録を紹介する。

 国道からペンション村に入り、丸沼林道の車止めから歩き始める。遮断器は開いているが、林道は除雪されていない。斜面が急なので近道できず、曲がりくねった林道を忠実に辿る。標高千五百㍍付近の曲がりで斜面に取り付いて次の曲がりまで近道し、そのまま斜面を辿って尾根に出た。尾根上には残雪があったが、すぐ解けてしまいそうだ。少し登ると残雪が増えて殆ど雪上を行くようになる。標高1880㍍付近で山頂から南西に延びる主尾根に出たが、尾根が狭く樹間が密で歩き難い。尾根が広くなると樹間が拡がり、快適な雪山歩きになった。しばらく緩い登りが続き、斜面が少し急になるとまもなく山頂に着いた。無雪期に想像したとおり山頂は針葉樹に囲まれた快適な幕営地だ。

 テントを設営し、休む間もなく軽装で燕巣山を目指した。ここまでは雪が締まっていたが、四郎岳の下りは軟雪なので輪かんを着けた。この下りは無雪期に感じた以上に急で、輪かんを着けて下るのが恐いほどだ。そのうえところどころ段差があるので樹を手掛りに迂回しなければならない。行く手には雪をまとった燕巣山が聳えている。戸倉方面からは槍の穂先のように尖っているが、間近に見上げる山容は山域随一の堂々たる姿をしている。

 稜線は明確ではなく、巡視道の切り開き伝いに下り、下部で南に山腹を横断し最低鞍部に着いた。尾根を少し登り返すと四郎峠である。稜線伝いに東の鞍部(標高1850㍍付近)を越えて燕巣山の登りにかかったが、 標高千九百㍍付近で膝を痛めた同行者が引き返した。一人山頂を目指したが、そこから十分ほど進んだところで挫折した。まだ標高差三百㍍近い登りがあり、帰りの四郎岳への登り返しを含めると標高差六百㍍の登りが残っている。燕巣山まで行くと日没までにテントに帰り着くのがやっとで山頂の幕営を楽しむどころではなくなると判断した。

 帰りは四郎岳の急斜面が待ち構えていた。足場が不安定なので輪かんを外したが、ラッセルに苦しんだ。標高差が大きく、燕巣山往復は地図上から考えていたほど簡単ではなかった。帰り着いた時には日が翳って、寒くなり始めていた。日が当たったテントで酒宴を楽しめばよかったと後悔したが、時すでに遅かった。ビールを飲み、食事をして早々に寝袋に潜り込んだ。夜は冷え込んで冬用の寝袋でも寒い。夜半から降雪になり、朝までに数㌢積もった。

翌朝まで小雪が舞っていたが、テントを撤収する頃には薄日が射してきた。下りは踏跡を辿るのみの雪山散策だった。

2009年3月28日〜29日
丸沼林道遮断器(1時間50分)主尾根(2時間)四郎岳(3時間10分)燕巣山1950㍍地点往復 四郎岳(1時間10分)支尾根分岐(1時間10分)林道遮断器


四郎岳(南の支尾根から)

四郎岳山頂の幕営

燕巣山(四郎岳の下りから)

四郎岳(四郎峠付近から)

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