桐生山野研究会

観音山と一色雷電山

桐生みどり 

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観音山・仙人ヶ岳概念図

 観音山(308b)は仙人ヶ岳から南西に延びる尾根の末端にある。山名由来は西麓の普門寺にある藁干(十一面)観音がこの山に奉祀されていたという伝承による。山頂下の平は雷電山と呼ばれ、雷電様の石祠が祀られている。主な登路は普門寺口、文昌寺口、泉竜院口の3つある。市街地から幸橋を渡った文昌寺口から登ると百庚申の分岐になり、東に少し行くと露出した岩の周辺に庚申塔群が祀られている。ここの庚申塔は殆どが丸石の文字塔である。「菱の郷土誌」によると庚申塔は113基で、一部には万延元(1860)年の刻印があり、その頃祀られたことが分かる。庚申塔は庚申信仰の講中が造立したもので百庚申は一箇所に多数造立したものである。庚申信仰は60日ごとに巡って来る庚申の日に夜を眠らず過ごして健康長寿を願う庚申待が江戸時代以後に地域の習俗化したものであり、現在はその習俗も廃れてしまった。
 すぐ先でガッチン山の分岐になり、山頂を往復する。山頂は岩が露出して展望が開けており、桐生川の後ろに吾妻山が大きく聳えている。本来の名は八幡山(はちまんやま)であるが、最近は通称名ガッチン山で通っている。ガッチン山の名は山頂の岩から名付けられたものだろう。
 滑り易い急な斜面を登ると雷電山に着く。石祠が祀られており、脇には榊が植えられている。傍らには松の大木があったというが、今では切り株を残すのみである。4月3日が祭日で松の大木に大きな幣束を立てて祈願した。雷電様は雷避け又は雨乞いの神とされているが、石尊と同じように農耕のために雨乞いを祈願したものだと思う。ここから僅かで観音山頂上に着く。頂上には何も祀られていないが、指導標に従って南東に少し下ると岩屋に秋葉宮と記された石祠がある。火伏せで有名な遠州秋葉山の三尺坊を祀ったものだ。秋葉山三尺坊は火防鎮護の神として秋葉山大権現と呼ばれ、信仰する人々によって各地に秋葉講が組織されている。ここから北東に巻道を行くと中尾根に続く稜線に出る。中尾根(290b)には近年、等身大の青銅製寝釈迦像が祀られた。中尾根は泉竜院方面に延びる尾根の名が山頂名に転化したものだ。ここから中尾根を下って泉竜院下の駐車場に出る。

 文昌寺(30分)観音山(15分)中尾根(20分)泉竜院

 観音山から仙人ヶ岳
 観音山から仙人ヶ岳へは藪混じりの稜線だったが、途中まで金葛からの遊歩道が整備され、その先の稜線にもはっきりした踏跡が付いて現在では登山道といっても遜色ない程度になっている。観音山から中尾根を経て遊歩道を行く。途中に休憩舎があり、ここから見る桐生市街地の展望は素晴らしい。中央を桐生川が流れ、吾妻山を背にした桐生市街地は山紫水明というに相応しい。中尾根から休憩舎までの間に北側の金葛へ下る遊歩道がいくつか分岐している。385bの頂が遊歩道の終点になっている。ここから先の稜線にはしっかりした踏跡が付いており、すぐ先で366bの三角点になる。檜林の稜線を登り詰めると大窪に着く。大窪は南側を流れる沢の名でその源頭にあるこの頂を同名で呼んでいる。桐生周辺では沢の名を山名にしていることが多く、何とか沢の頭という呼称はなかった。何とか沢の頭という呼称は山歩きの人が付けたものである。大窪からいったん下って登り返すと5分ほどで仙ヶ沢(647b)に着く。ここから仙人ヶ岳最高点の朝日沢山まで50分ほどだが、元に戻るなら途中から黒川沿いの林道に下る。黒川への下降点から杉林の急斜面を10分ほどで作業道に出てさらに10分ほどで林道の終点に着く。ここから出発点の観音山登山口までは4`、歩いても1時間ほどである。

 観音山(2時間)仙ヶ沢(40分)林道終点(1時間)観音山登山口

 一色雷電山
 黒川地区には観音山下の雷電山以外に一色にも雷電山がある。前者を下菱雷電山、後者を一色雷電山と呼んで区別している。一色雷電山には坂下橋を起点に遊歩道が整備されている。坂下橋から人家の庭先を通って登って行くと尾根上に石祠が三基並んでいる。これは出羽三山の石祠で、右側が月山、左側が羽黒山と記載されている。記載はないが、中央の石祠が湯殿山である。湯殿山の石祠には「文化二乙丑(1805)年七月吉日 下野國足利郡小友村一色」と記載されている。
 その先に「貴舩宮」と記された石祠があり、「明治三十(1897)年一月二十五日 大澤文治郎」と記載されている。「菱の郷土誌」によるとこの石祠は貴船大明神といい、大間々の貴船神社を分社したもので、貴船神社のお札を拾ってから運が開け商売が繁盛した人が奉納したものだという。ここから雑木林の尾根を急登すると雷電山(327b)に着く。頂には3つの石祠が並んでおり、右側の石祠には文政と刻まれている。中央の石祠には元禄三庚午(1690)、左側の石祠は享和二壬戌(1802)年二月吉祥日と記されている。元禄時代の石祠は珍しく、三百年以上経っているとは思えない。ここからいったん下って登り返すと住吉団地から仙人ヶ岳への登山道に合流する。下山は鞍部まで戻って北側に下る。急な下りで沢沿いに出るとカタクリの群生地に着く。春には落ち葉の堆積した沢沿いにカタクリの花が点在して咲いている。やがて森山橋に出て車道を黒川沿いに下ると坂下橋に戻る。

 坂下橋(30分)雷電山(10分)展望台(20分)森山橋(15分)坂下橋

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ガッチン山から観音山 観音山から仙人ヶ岳
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休憩舎から吾妻山 休憩舎から桐生川と市街地
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雷電山の石祠 秋葉山三尺坊
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出羽三山石祠 一色雷電山石祠

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