根本山から野峰縦走

桐生みどり

 桐生川源流域の根本山・十二山・熊鷹山・丸岩岳・野峰に連なる稜線は行政上、佐野市(旧安蘇郡田沼町)に属するが、よほど詳しい人でない限り、桐生市民の大半は桐生の山だと思っている。分水嶺を境界とするのが通例であるが、旧田沼町入飛駒地区が桐生市に編入された際に町有林を残して集落だけを桐生市に帰属させるため、変則的な境界が決められた。山腹が境界というのは全国的にも珍しい。

 この稜線は高低差が少なく、藪が少ないので歩き易い。桐生川右岸の山と同じくらいの高さであるが、たおやかな稜線なので山容は雄大である。桐生の山を代表する縦走路であり、軽い1日行程で縦走できる。
2008年3月、石鴨行きのバスが廃止されるのを機にバスを使って久しぶりに縦走した。バスがなくなったので、今後は自動車2台を使うしかないだろう。

 桐生駅からバスに乗り、1時間で終点の石鴨に着いた。いつもは車で登山口まで行くが、たまに歩くと普段見ない桐生川の滝や景色が目に入り、新鮮である。不死熊橋から旧道を登り、数分で再び林道に出たところが登山口だ。中尾根を登り、山頂近くの十字路に着いた。根本の頂上(青龍山1199m)には行かず、巻き道を十二山根本山神社に向かう。

 青龍山の名は根本山神社奥宮の東にあることから四神信仰に基づき命名されたのだと思う。根本・氷室周辺には四神信仰に基づく命名がある。東は青龍の青兵衛、北は玄武の黒兵衛、西は白虎の白兵衛、南は朱雀の赤兵衛等である。巻き道は斜面が崩れて不明になっている箇所があるので注意が必要だ。十二山根本山神社は野州側の信仰対象、根本沢沿いにある根本山神社は上州側の信仰対象になっていた。野州側の登拝路は飛駒から丸岩岳の東の肩を通っており、今も道沿いに丁目石が残っている。氷室山分岐から山腹の巻き道を行くとすぐ十二沢への分岐となる。そのすぐ先で野上の三滝への道を分けている。

 根本山から野峰にかけて道は山頂を経由せず、等高線沿いに付いている。もともと仕事道であり、山頂に行くのが目的ではなかったためである。熊鷹山は西側の巻き道を辿らず、稜線伝いに山頂に立った。近年は山登りを目的に来る人が大半なので、巻き道が不明瞭になり、稜線通しに山頂に向かう道が付いている。熊鷹山頂(1169m)は展望が良いのでいつも賑わっているが、時期が早いので他に二組しかいなかった。

 山頂から少し下って巻き道に合流したところが熊鷹山神社である。鳥居と石祠があり、「熊嶽山神」「安蘇富士山」と記載されている。この神社は旧野上村(旧田沼町を経て現在は佐野市)の人たちが祀ったものである。稜線通しに丸岩岳に向かう。

 以前の道は丸岩岳(1127m)の東側を巻いていたが、現在は稜線通しに道が付いており、いつの間にか山頂に着いてしまった。昔の山頂は木立に被われて展望がなかったが、今は開けている。丸い平凡な山であり、丸岩岳の名は山容にそぐわないと感じていたが、以前会った地元の人は丸山と呼んでいた。丸山が丸岩岳に転化したのかもしれない。

 丸岩岳から先は道が不明瞭になり、僅かな踏跡になる。すぐ十二沢から延びている林道を横切る。丸岩岳・野峰間は、距離は長いものの、登り下りが少ないので意外にあっさり野峰北峰(1010m)に着いた。山頂は檜の植林帯で薄暗く、いつも長居する気になれない。雑木林に囲まれた南峰の方が気持よい。

 野峰とは珍しい山名である。一般的に野の付く山はなだらかな斜面と頂を持った山であり、緩斜面は村落の入会の草刈場(萱場)として利用されていることが多い。野峰も例外でなく、1960年代前半までは草山で、萱場になっており、鳥屋があって田沼側の人が鳥を捕らえていたという。現在は植林された檜や杉が大きくなり、展望が得られなくなって昔を知る人は魅力がなくなったと言っていた。野峰に山を付けて野峰山と呼ぶのは間違いである。以前は野峰頂上に至る道はなく、いずれの道も頂上を巻いていた。

 野峰の下りは道がはっきりせず、標識もないので地図で針路を見極める必要がある。梅田に下るつもりが誤って飛駒に下ってしまった知人がいた。南峰から方向を転じて西に向かう。鞍部から南側に下って久しぶりに野峰の池を目指したが、池はなかった。堰き止めていた堤が壊れて水が涸れてしまったようだ。927m突起の東側を巻くと道は明瞭になる。野外活動センターで整備したこともあって道形はしっかりしている。この道は馬が通っていたといい、蹄鉄場の地名も残っている。旧田沼町の町有林を過ぎ、尾根の末端近くなると山神の祀ってある十字路に出る。直進する道と左の道は野外活動センター方面に至る。右に下ると人家の脇を通って県道に出た。北に少し行くと梅田ふるさとセンターである。ここでバスを待って桐生駅に戻った。

石鴨(20分)不死熊橋(1時間10分)根本十字路(15分)十二山神社(40分)熊鷹山(30分)丸岩岳(50分)野峰(1時間40分)梅田ふるさとセンター

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